尿路上皮癌(移行上皮癌)について
2023.03.29
こんにちは、獣医師の永井です。
桜も満開を迎え、やっと暖かくなってきましたね。
今回は、尿路上皮癌(移行上皮癌)についてです。
尿路上皮癌は、犬の膀胱腫瘍の中で最も多い腫瘍です。主に膀胱粘膜の一部から発生して膀胱内に腫瘤を形成しますが、中には膀胱外へ浸潤する場合もあります。好発部位は膀胱三角で、進行すると排尿困難から急性腎不全に陥る可能性がある腫瘍です。(※膀胱三角:尿管と尿道、膀胱の血管、排尿に関係する神経が集まっている非常に重要な場所)
初期症状は、血尿、頻尿などの膀胱炎と似た症状で、無症状の場合もあります。膀胱粘膜に異常がある場合は、カテーテル生検、膀胱鏡下生検と補助的な遺伝子検査などを組み合わせて診断します。
中でも、膀胱鏡検査は膀胱粘膜を直接カメラで観察し、組織を採材するため、小さな病変でも確実な検査が可能です。欠点として、カメラのサイズが決まっているため、犬の体格や性別によって適応できない場合があります。
膀胱三角部以外に腫瘍ができた場合は、膀胱部分摘出術が第一選択になります。膀胱はある程度切除してしまっても数ヶ月で元のサイズに戻るので、頻尿などの症状は一時的です。
膀胱三角部に腫瘍ができた場合は、膀胱を温存して腫瘍を切除することは通常不可能とされており、膀胱全摘出術が必要となります。膀胱全摘出術は、根治を目指せる治療法ですが、常に尿が漏れるためにおむつをつけての生活になります。
その他の治療法として、化学療法、放射線治療などがあります。それらは、できる限り進行を抑制して腫瘍と共存していくことを目的とした治療法です。また、排尿困難となってしまった場合は、ステントを用いて尿路を確保する処置を行うことがあります。
予後は、内科的治療で1年弱、外科+内科的治療で1年強ほどです。転移する前に外科的治療を行なった場合は、根治して長生きできる子がいるため、早期発見が重要となります。
今回治療させて頂いたワンちゃんは、膀胱三角に粘膜肥厚があり、膀胱鏡下生検で移行上皮癌と診断しました。(動画:左のモコモコした隆起が腫瘍です。)
膀胱全摘出術は希望されなかった事、比較的小型の腫瘤であった事より、部分摘出術と両側尿管膀胱新吻合術を行いました。
現在は、分子標的薬を服用しながら再発、転移がないか経過観察を行なっています。
尿路上皮癌は早期発見、早期治療が重要で、治療の選択肢も大幅に変わってきます。当院では、健康診断なども行なっておりますので、気になることがあれば、ぜひご相談ください。