犬の変形性関節症に対する再生医療(PRP療法)
2019.07.19
再生医療としてのPRP療法は、多くがスポーツ選手などを対象に発達してきた治療法で体の自己治癒力に働きかけ、組織の再生速度を高めていく治療法です。犬の関節疾患への治療利用として早くから注目されており、今現在アメリカを中心に多く利用されています。その方法は、怪我の程度により、単独での使用や、リハビリや最新の外科治療の術後回復としての使用で効果を発揮します。
怪我などで損傷した組織を治す過程において様々な細胞が関わっています。その中で、一番最初に関わる細胞に血小板があります。
血小板は、ご存知の通り、出血した組織などに張り付いて止血する役割を担っていて、そのため、まず最初に患部に送られ初期対応をします。この際血小板は、止血のみでなく、その部位を修復する因子を活性化する作用を持ち合わせています。その作用に促されるように他の再生因子もその後動き出すような仕組みになっているのです。
つまり、血小板が多くある患部にはより多くの再生因子が送られてくるのです。
この作用を利用して行う再生医療が、PRP(多血小板血漿療法)になります。
PRP(Platelet Rich Plasma)法
自分自身の血液を使用します。採取した血液を遠心分離することで、血小板の豊富な血漿を作成し、その血漿を治したい患部に注射します。自分の血液を利用するので、副作用などの心配は要りませんが、体内に注入するものなので滅菌操作がとても大切になります。その為専用遠心分離機や専用の特殊な注射器としてダブルシリンジシステム(下写真)が用いられ、安全に簡単に無菌操作ができるようになっています。
(写真)遠心分離機専用注射器で分離された血液。上のオレンジの液(血漿)のみを空気に触れることなく無菌的に抽出できる特殊な注射器になっている
注射回数は、10日〜2週間に1回の間隔で4回行います。注入方法は、超音波や関節鏡を用いて関節内や腱などに直接注射針を挿入します。関節炎に対して多くは、ヒアルロン酸と併用して関節内投与を行います。
(写真)コッカースパニエル7kg 超音波ガイド下で肩関節にPRPを注射
犬整形外科におけるPRP療法は、様々な関節における関節炎(変形性関節症)や、半月板損傷、十字靭帯の部分損傷、離断性骨関節症、靭帯損傷などあらゆる疾患に対し行われ、また外科治療後と同時に行うことでより早期な回復が見込めることにもなります。 本院では、2009年に関節疾患への治療の試みとしてスタートし、肩関節において、二頭筋腱炎、棘上筋腱炎、肩関節不安定症における関節炎、膝関節において、前十字靭帯部分損傷、半月板損傷に対する手術後の治療補助として、また肘関節において、肘関節形成不全症に対する変形性関節症などに対して主に治療をしています。