専門医療 犬・猫の肩関節の病気
2019.03.24
肩関節の病気 / 肩関節不安定症(Shoulder instability) 肩関節脱臼(Shoulder luxation)
犬猫は、一般的に前足に対しての体重配分が後ろ足より多く体重を乗せて歩いたり走ったりしていることがわかっています。そのため、前足の障害は後ろ足に比べて、生活において障害が出やすく、異常にも飼い主様が気づきやすく、比較的早期に発見することができます。
肩関節の症状の多くが、転頭運動(Head bobbing)いう特徴的な異常歩様を示します。こちらは、歩くときに頭が上下して歩く異常歩様で、ゆっくりとした歩きのときに見られる場合や、速歩時にのみ見られたりと様々です。
診察時は、カメラで撮影して検証することをお勧めします。確定検査には、透視カメラによる動的な診察と関節鏡検査が行われます。
肩関節不安定症
中大型犬に多く見られますが、小型犬も発症します。猫では比較的稀な疾患です。
生まれつき肩関節の形成が悪い場合や、ドッグランなどのエクササイズの際に肩関節を慢性的に痛めた結果、肩関節がやや外れるようになっている状態です。多くは、運動の後半で痛みを示すことが多く、休むと軽減しますが、また動くと間欠的に再発を繰り返します。発症初期の段階では、レントゲン検査では見つけられる場合は稀で、一般的に触診(肩関節の可動域の評価)と疑わしい場合は、関節鏡検査によって肩関節周囲の靭帯や腱の損傷が見つかります。
アメリカンコッカースパニエル8kg
肩関節に関節鏡を挿入し、関節内からカメラを用いて靭帯を確認します。
治療 保存療法と外科治療が有ります
軽度の場合、リハビリを中心に肩関節への注射や、特別なバンテージにより治療します。
外傷性肩関節脱臼の軽度な場合、保存治療として
受傷直後は約2週間はベルポー副子包帯法を用いて固定し(左の写真)、その後足かせバンテージ(Hobble)を装着して2〜3ヶ月関節の動きを抑制して生活します(右の写真)
多血小板血清療法(PRP療法)
関節内への注射 超音波エコーを用いて注射します。
軽度の靭帯の損傷や急性の関節炎、高齢犬における慢性的な関節痛など様々な症状に対応しています。
PRP療法 本人の血液から血小板を作成し、関節や痛めた靭帯へ直接注射する方法を提供しています。この方法は、人医療においてスポーツ選手などで盛んに行われています。血小板は、血を止める役割と組織修復を促すメッセンジャーの役割を担っています。血小板を注射することで、その部分を体が積極的に修復しようとする働きを促して自身での治癒力を高めさせる方法です。一般的に2週間に1回の投与で4回行う計画になります。
外科治療
慢性的に経過してしまった場合、肩関節の靭帯の重度な損傷などに至っている場合が多く、この場合は関節鏡でその状態を評価し、人工靭帯による靭帯の再建を行います。術後は、リハビリを行いつつ肩関節をなるべく動かさないようなバンテージで固定し、徐々に運動を再開していきます。
肩関節脱臼
すべての大きさの犬猫で見られますが、特にミニチュアプードルなどのトイ犬種では多く見られることから、この素因があると思われています。
症状は、脱臼の頻度によって持続的な場合や間欠的な場合様々です。
突発的に痛みによる前肢の跛行で、痛めた足は挙上していることがほとんどですが、脱臼が偶然戻ると症状も消失したりします。
一般的には、関節周囲の内側か外側の靭帯を損傷にてしまった結果、肩関節の脱臼を起こしています。診断は関節の触診とレントゲン検査でわかる場合や、鎮静麻酔下で、透視検査によって関節の亜脱臼が見つかる場合と程度によって様々です。
トイプードル3kg
約3ヶ月間内方脱臼した状態でした。痛めた足は、曲げた状態で歩行していました。診断後治療して正常な歩行へ回復できています。
治療は、その頻度によって、バンテージで肩関節を一時固定して安定を期待することもありますが、再発率が高いことや、痛みが継続していることが多く、手術での対応が必要になります。
肩関節の再建手術
内方脱臼の場合
肩関節内側には、主に靭帯(内側関節上腕靭帯)が肩の安定に関わって、この靭帯が損傷して脱臼を起こしています。そのため治療はこの靭帯を人工靭帯(スチャーアンカー)で再建します。1kgの小さな犬から50kgクラスの大型犬までそれぞれ使う人工靭帯の太さは違いますが再建方法は同じです
トイプードル 3kg
内側の靭帯の起始部に設置します。靭帯は2本あり、肩甲骨の前後部にそれぞれ付着しています。その部分にアンカーで人工靭帯を設置し、穴の空いたエンドボタンでそれぞれを前足に設置します。
スタンダードプードル 25kg
トイプードルと同様に内側の靭帯の再建を行っている。犬のサイズが大きいため、トイ犬種で使用されるスチャーアンカーではなく、すべてエンドボタンのシステムを使用して、より安定力を得た。
外方脱臼の場合
主に大型犬で見られる場合が多いですが、小型犬も高いところから飛んだ後強い押し上げる力が肩関節にかかった場合に起こりえると考えられています。
肩関節外側には1本の靭帯(外側関節上腕靭帯)が肩関節の安定に関わっているためにこれを人工靭帯をもちいて再建します。
ビションフリーゼ 4kg
落下により肩関節の外方脱臼。靭帯の再建は、外側は1つの靭帯を再建するために、2つのアンカーをそれぞれ靭帯の起始部に設置しその間を人工靭帯で再建する。
手術後は?
手術後は、肩の動きを抑制する包帯を巻いて安定を促し徐々に普通の運動に戻していきます。
肩の動きを抑制するのは、非常に大切で、ある程度時間を必要とします。
このため、中大型犬においては、長期的な抑制は現実的に無理な場合が多く、本院ではそれぞれにあった足かせバンテージをオーダー(冒頭の写真)してもらい装着しています。これをつければ、手術した足もほぼ普通に使用しつつ肩の運動を抑制することができます。
予後
安定した肩関節の治療には、約3ヶ月ほどかかると考えられていますが、安定が得られれば、その後はまた散歩やスポーツなど普通の日常生活を送ることも可能です。
ボーダーコリー15kg 左肩関節手術後1年経過
3kg トイプードル 左肩関節内方脱臼術後4年経過 肩関節脱臼はトイプードルで多く見られる疾患です。人工靭帯による再建手術は比較的術後良好であると考えます
このような手術を行っても肩関節脱臼の慢性化によって、再脱臼する場合などは、肩関節固定術を選択する事が良いでしょう。
肩関節を固定しても、犬猫は、痛みもなくなり歩いたり走ったりして散歩する事も可能になります。しかしながら、本来の関節の動きではなくなるわけですからこの方法は、最終的な救済手術である事には変わりはありません。
治療実績については、本院より学会での報告を行っています。
獣医麻酔外科学会春季大会
(犬肩関節不安定症に対する関節鏡下再建手術の治療成績)
神奈川県獣医師会発表会
(トイ犬種肩関節脱臼に対しSuture Anchor を用いた治療成績)
麻酔外科学会春季大会2016
犬の肩関節疾患に関する基礎知識と最新知見